近年、働き方改革の一環として推進されてきた副業。そこにコロナ禍での労働環境の変化や会社に依存する生き方への不安も加わり、副業・兼業への関心はますます高まっています。実際に副業をはじめる人や副業を解禁する企業も増えており、今後もこの傾向は続いていくでしょう。
一方で、副業を就業規則や慣習的に禁止している企業が多くあるのも実情です。しかしながら、企業は原則として社員の就業時間以外の行動に制限を設けることは本来できません。「副業をしたいと言う社員がいるがどうすればいいか」という課題に直面している人事担当者も多いことでしょう。
反対に、「優秀な人材にプロジェクト単位で参画してもらいたい」「人手不足に陥っている部署のアシスタントとして部分的に人材を補充したい」というケースもあるでしょう。
副業解禁によるメリットとデメリット、副業人材を受け入れることのメリット・デメリットから、副業人材の活用を会社の成長につなげていく可能性を考えます。
労働環境の変化に伴い、副業の種類や働き方も多様化しています。これまでの「時間と場所を指定して労働力を提供する」という仕事から、リモート前提で知識や経験、特技を売る「スキルシェア」の副業が増えていることが特徴的です。また、単発・短時間・短期間で仕事をする「スポットワーク」や、フードデリバリーのように隙間時間に働く「ギグワーク」と呼ばれるスタイルも定着してきました。副業人材に向けた人材サービスやマッチングサービスも急速に広がっています。
生活様式が一変し、かつては考えられなかった働き方が実現している今。企業側も働き手も、さまざまな選択肢と可能性を持つことができるようになりました。それぞれが持つ、副業に対する意識と実態をご紹介します。
厚生労働省 労働政策審議会の資料によると、2020年に実施された副業に関する大規模な調査では、副業を行う理由(複数回答)としてもっとも多いのは「収入を増やしたい(56.6%)」。次いで「1つの仕事だけでは収入が少なすぎて、生活自体ができない(39.7%)」が挙げられており、収入増加を目的としている人が圧倒的に多いことがわかります。
3番目に多い理由は「自分で活躍できる場を広げたいから(19.8%)」というもの。自身の能力を発揮する場を社外に求めている人が多いことが見て取れます。
出典:厚生労働省「副業・兼業に係る実態把握の内容等について/副業・兼業に関する労働者調査結果(令和2年8月19日)」
前述の厚生労働省の労働政策審議会では、企業サイドへの調査結果も公表されています。そのデータによると、全国の事業所で正社員の副業を認めている割合は約40%。
正社員の副業を認めている企業のうち、全体の55.2%で「規定・制度がなく慣習として認めている」という環境でした。反対に正社員の副業を認めていない企業でも、46.0%が「規定に関わりなく慣習として認めていない」と回答。副業に関する規定がしっかりと制定されていない実態が見て取れます。
出典:厚生労働省「副業・兼業に係る実態把握の内容等について/副業・兼業に関する事業所調査結果(続報)(令和2年7月31日)」
副業解禁に注目が集まる一方で、多くの企業では体制整備が追いついていない実情。そこで、これから体制を整備していこうという人事担当者のために、社員の副業を解禁するメリット・デメリットを解説します。
社員が副業での活動を通して視野を広げたり視座が向上したりすることは、社内の業務にとっても好影響を及ぼすことでしょう。例えば一般社員が個人事業主として副業を行うことで、経営者の視点を持つ、他部署の業務への理解が進む、新たな知見を得られる、といった利点が考えられます。それは人材育成・教育にかかるコストの削減と、成長を遂げた社員の業績への貢献が期待できます。
また、現在の業務を続けたまま新たな挑戦ができるということは、成長意欲のある社員の流出を防ぐことにつながります。人材の定着や多様な人材・優秀な人材の獲得にも好影響を与えるでしょう。
就業規則で副業を禁止している場合、制度の整備・見直しを行う必要があります。また、本業に支障をきたすことがないよう、どのようにバランス・コントロールをするのか、労働時間をどのように把握し健康を守るのかという課題も。機密情報の漏洩リスクや、競業企業の利益につながらないかなど、管理に気を配る必要も出てきます。
原則として禁止できない、社員の副業。現行の規則で禁止している企業は副業を認める方向で見直しを行い、環境を整備する必要があります。もっとも避けるべきは、「禁止される」「許可基準が不明瞭で申請しても不許可とされる」ことを理由に、社員が会社に隠れて副業をしてしまうこと。副業の業務内容や労働状況がわからないことで、かえって過重労働や情報漏洩のリスクが高まってしまうのです。
そういった隠れ副業を防ぐためにも、社員の副業に関する規定を整備する際に検討すべき具体的なポイントを以下にまとめました。
労働関係の法令とガイドラインを確認しましょう。どういった副業をどこまで認めるのか、許可制か届出制か、勤務実態をどのように把握するのかなどを決め、就業規則に記載し周知します。
原則的に、社員から副業先での労働時間の申告を受け、通算して管理する必要があります。社員が気を付けるべきことのチェックリストや副業ガイドラインを作成し、周知徹底すると良いでしょう。
会社には、社員が健康的に働けるようにする安全配慮義務があります。長時間労働により精神的・身体的な健康を損なったり、パフォーマンスやモチベーションの低下で本業に支障をきたす事態にならないように十分配慮しましょう。
副業の勤務先や契約形態、所得の種類によっては、社会保険料の支払額や住民税の支払額・徴収方法に影響があります。誰がどの手続きを行う必要があるのかを把握しておきましょう。
本人が意図しなくても、副業先での雑談などから取引先情報などが漏れてしまう可能性が考えられます。会社の利益を損なったり名誉毀損につながったりすることがないよう、リスクマネジメントと社員への徹底した教育が求められます。
副業には経済的なメリットだけではなく、「人間関係が広がる」「知見・視野が広がる」といった効果も期待できます。それは社員の成長実感や幸福感の向上のみならず、企業の成長やゴールにもつながることでしょう。
副業が広がりつつあることで、優秀な人材を自社で効率的に活用できる場面・方法も増えています。次回の記事では、社内に副業人材を受け入れる際のポイントをご紹介します。