物流業界ほどコロナ禍で大きく変化した業種はそうはありません。消費者の買い物の仕方は文字通り一夜にして様変わりしました。事実、2020年の世界のeコマース売上は前年比27%を超える勢い(※1)で拡大し、オンラインショッピングへのこうした大幅シフトによって、世界中の企業が十分に計画を立てる時間もないままに新しい物流戦略の構築を迫られています。この問題に輪をかけるのがほぼ週単位で変わる商品需要の変動とかつてない人手不足です。
世界の感染拡大は落ち着きを見せ始め、グローバル市場はようやく安定化に向かっていますが、物流業界の人材需要はいまだ高く、特に優秀な人材の獲得は厳しい状況が続いています。例えば米国だけでも、2029年までに物流業界で60万を超える新規雇用が見込まれています。
物流人材は特に次の業界共通の職種について高い需要があります。
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A地点からB地点までの物品輸送の管理を行います。鉄道輸送、陸上輸送、海上輸送など種類別に専門が分かれている場合もあれば、すべての輸送手段の物品輸送を担当する場合もあります。
EUの輸送業界従事者は1,100万人を超え、労働市場全体の8%超を占めています。専門家の予測によると貨物輸送量は2050年までに60%の増加(※2)が見込まれ、物流人材需要のさらなる高まりが予想されます。
サプライチェーンプランナーは物品輸送の監督ではなく、サプライチェーンプロセスの構築に責任を負い、調達から在庫、梱包から配送に至る一連の計画をカバーします。
中国の輸出は、パンデミックにもかかわらず9.9%の伸びを記録し、ポストコロナ市場における物流需要の増加に対応するため、中国企業の93%が現在のサプライチェーンプロセスを転換し、効率化を図ろうとしています。各企業でのこうした転換の取り組みの担い手として、中国では今後数年、サプライチェーンプランナーの需要が増加すると言って差し支えないでしょう。
倉庫作業員、特にフォークリフト免許取得者は物流業界の要です。受注処理から梱包、発送に至る一連の作業を担当します。
倉庫作業員は米国だけでも300万人(※3)を超え、2029年までに12万5,000の新規雇用が予測されています。英国では2021年の輸送、物流、倉庫業務の求人件数が2019年と比較して倍以上に増加しています。
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物流業界における新たな人材動向をまとめた要約を作成しました。パンデミック後の不透明な市場を乗り切るために手元に置いて、すぐに参考にできます。
物流人材の需要は増加の一途を辿り、よって雇用主は最新の人材動向と戦略をキャッチしていなければなりません。こうした情報は業績を高め、ひいては拡大を続ける市場で競争力を維持するための採用戦略作りに有用です。
役立つ情報をご提供するために、物流業界における新たな動向を以下にまとめました。
物流業界はコロナ禍以前からスキルのある人材の獲得に苦戦していました。そこへパンデミックが直撃し、物品輸送需要が急増しただけでなく、スキルのありなしにかかわらず労働供給が一気に逼迫しました。経済は安定化に向かいつつありますが、スキルのある人材の確保は依然として難しい状況です。
こうしたスキルギャップの背景には次のような要因があります。
スキルのある人材の不足(※4)はもちろん、全体として人手が不足しています。専門家の予測では2030年までに世界全体で8,500万の労働者不足が発生し、この予測が正しかったとすると、人手不足は物流業界に止まらず、すべての業界の企業に前例のない重い負担となります。
人手不足の一番の要因は米国、日本をはじめとする世界の多くの国が数十年にわたって直面している出生率の低下です。米国で言うところのベビーブーム世代にあたる膨大な数のベテラン労働者が今、一気に定年年齢を迎えています。この空席を若年労働者で埋めるには数が足りません。不運なことに新型コロナウイルスの感染拡大によって一部のベテラン世代は仕事復帰ではなくそのまま退職を選択し、この問題に拍車がかかっています。
これは近い将来に解決しそうな問題ではなく、むしろ、今後も競争力を維持したいのであれば、雇用主はすぐにでも採用活動の見直し、教育研修の強化、既存人材のアップスキリングに着手する必要があります。
世界の労働力の若年化は疑いようのない事実です。ある調査結果(※5)によると、世界の生産年齢人口の21%を15~24歳が占めています。このうち就業者はわずか36%です。生産年齢人口の64%が就業していない状況を踏まえ、この潜在的労働力の多くには物流業界で求められるスキルが備わっていないであろう事実を認識する必要があります。ロジスティシャンやサプライチェーンプランナーなど専門職種では特にそうです。
さらに、こうした潜在的労働力の多くは学校教育を修了しておらず、仕事を始める準備が整っていません。大卒者であっても、多くの場合は実務経験がほとんどまたはまったくありません。退職者の後任を探すとなっても、同じスキルセットを持つ人材の採用は今後も難しいと言わざるを得ません。
こうした年齢層の変化はどこか一部で起きている現象ではなく、ほぼすべての市場に影響を及ぼしている世界的な動きです。例えば、前述の調査では、米国の労働者の3分の1をすでにミレニアル世代が占め、アジア太平洋では2025年にはZ世代が全体の4分の1を構成すると予測されています。
このほかカナダでは、65歳以上の高齢者1人に対する生産年齢人口は現在、3人を切っています。労働市場の停滞を考えるとこの数字はたいしたことがないように見えるかもしれませんが、スキルのある人材の需要増加に対して若年化する人材プールは人材確保の厳しさを悪化させる要因になり得ます。
条件に見合った人材を確保するうえでの物流会社にとってのもう一つの大きな問題は、この数年で職務を遂行するために必要なスキルが劇的に変化したということです。物流業界全体の変化が現実です。革新的テクノロジー、ブロックチェーン、ロボティクス、ワークプレイスオートメーションなどの登場が多くの物流プロセスを合理化しました。こうした新しいテクノロジーが業務プロセスの合理化や職場の効率化に力を発揮している一方で、仕事をうまく進めるために必要なスキルも変化しています。
物流企業では今、テクノロジー関連スキルを持つ人材が従来に増して求められています。購買マネージャーや在庫管理マネージャーなど高度な職種では以前からデジタルスキルが重要な採用基準に加えられていましたが、現在では一般の職種でも特定のテクノロジー関連スキルが必須です。
例えば、多くの倉庫にワークプレイスオートメーションが浸透していますが、さまざまな機器を使いこなし、こうしたテクノロジーと連携して仕事ができる人材が求められています。残念ながら、倉庫業務に応募する求職者の多くがこうした必要スキルを備えていません。それどころか、上級職の応募者にも物流業界で成功するために必要なデジタルスキルが不足しています。求められるスキルの変化が雇用主を混乱させ、求人に対して欲しい人材を確保できていません。
要点
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幸いにもパンデミックを乗り越えられた物流会社は今、スキルのある人材の需要増加に直面し、この需要増が労働市場の競争を激化させています。スキルのある人材を惹きつけるために雇用主ができる努力の一つが報酬・福利厚生の充実化です。
多くの雇用主にとって報酬アップは目下の予測不可能なポストコロナ市場において難題に思えるかもしれません。事実、多くの物流会社は増やす方向ではなくむしろ予算を引き締め、コストを削減するための措置を講じています。ですが競争力のある報酬を提示できなければ、効率的な生産性を維持するために必要な人員は確保できません。
朗報は、正しく行えば、コストを増やさず報酬と福利厚生を引き上げることは可能だということです。市場調査に基づき給与の最適範囲を見つけられた企業は従業員の離職率も常習欠勤も強制残業も抑えられています。これらはすべてコスト削減につながり、給与の引き上げコストを上回ることも少なくありません。
今日の情報通の求職者は魅力ある報酬に関心を示すのはもちろんですが、それ以外のメリットに対する考え方も変化しています。パンデミックを経験した求職者が歯科、眼科、補完保険を含む医療保険を重要なメリットと考えるのも不思議ではありません。特に公的医療保険制度がない国においては医療保険は従来から重要な要素でしたが、自分にとって必要な保障が含まれているのか、求職者がよく吟味するようになっています。
変形労働時間制も求職者が求めるメリットの上位に浮上しています。コロナ禍で多くの労働者の個人の生活でストレスが増している状況下では納得のポイントです。新型コロナウイルス感染症の副作用や親しい人を亡くした悲しみに立ち向かっている人もいれば、高齢の親の面倒を見たり、世界中で学校が閉鎖されたことから子どもの自宅学習の面倒を見たりしているケースもあるでしょう。そのほか勉強を続けるため、副業を始めるために変形労働時間制を希望することもあります。
ポストパンデミックの世界の不安定さは長期化し、求職者は将来の雇用主にある種の安心を求め、健康的なワークライフバランスを保つための柔軟さを求めています。この柔軟さにはさまざまな形態があり、例えば有給休暇の増加、変形労働時間制、パートタイム労働、シフトの入れ替えなどが挙げられます。
職場の安全も今日の従業員が重要視するポイントです。安全教育の提供や部屋の洗浄、交換などに費用を投じ、雇用主が安全な職場環境作りに真剣に取り組むことを望んでいます。
要点
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パンデミックが物流業界に与えた教訓が一つあるとするならば、それは適応力の必要性です。消費者の買い物習慣が文字通り一夜にして様変わりし、実店舗ではなくオンラインストアでの買い物を好む人が増えているだけでなく、さまざまな商品の需要もほぼ週単位で変化しています。
多くの物流会社は消費者の新たな需要に応じてほぼ即座に発送プロセスを転換させる必要性に迫られ、しかも消費者が求める商品の種類が常に変化することから調達、梱包、保管、配送プロセスの大幅な変更を求められました。
商品需要はコロナ禍で大きな変動が続き、よって需要に応じて柔軟に増減できる人員体制がますます必要です。そのために次のような取り組みが進められています。
米国における常習欠勤はコロナ禍で45%以上増加し、雇用主は重要機能を維持するために従業員のクロストレーニング行う重要性に気づき始めています。これを正しく行えば、重要機能を担う従業員が数名休んだとしてもスムーズなワークフロープロセスを維持できます。
感染拡大は落ち着きを見せ始めていますが、それでもクロストレーニングの取り組みを止めるべきではありません。むしろ職場での競争は厳しさを増し、社内にマルチスキル人材を抱える必要性は増す一方です。
世界がポストパンデミックの市場へと向かう中、消費者の需要に対応する能力が物流会社の成功を左右し、しかし残念ながらどの企業も隙あらばコストカットしようと並々ならぬ対策を講じているのが現状です。過度なコストを発生させることなく、柔軟な増減調整が可能な人員体制を構築する最も効率的な方法の一つは、臨時雇用者、季節労働者(※7)の活用です。欠員補充のために臨時雇用者を雇えば、スキルのある既存人材は物流プロセスの基幹部分に専念できます。
職場のすべてのポジションを臨時雇用者で賄うことはできませんが、変動する消費者の需要に対応するには力強い味方です。物流業界における臨時雇用者ニーズは少なくとも短期的に縮小の見込みはありません。その一方で、米国を中心にした一部の企業は非正規従業員の正規雇用に力を注いでいます。
正確な職場分析なくして柔軟な人員体制の構築はほぼ不可能です。要員と必要生産量の予測能力は規模の調整には特に欠かせません。結局のところそのシフトに何人の労働者が必要なのか、正確に予測しなければなりません。臨時雇用者、季節雇用者を活用する物流企業であれば高度な予測能力がなおのこと重要です。
朗報は、正しい職場分析があれば、生産需要を満たすだけでなく、コスト削減にも貢献する正確な勤務スケジュールを立てられるということです。
要点
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物流業界の多くの企業と同様、ポストパンデミック市場での人材確保に不安を抱いているのなら、始めにやるべきは物流業界の変化と新しい採用動向を知ることです。物流業界における新たな人材動向をまとめた要約を作成しました。パンデミック後の不透明な市場を乗り切るために手元に置いて、すぐに参考にできます。
Having close to 20 years experience in HR & recruitment, her extensive expertise lies in developing effective HR strategies and solutions for global companies to drive business results, managing client relationships at senior and executive level, and creating long-term partnerships. Keen to share her perspective and opinions with the HR community, Yvette highly involves herself in industry events on a wide range of topics, including workforce planning, talent management, employer branding and more. |
※本記事は、ランスタッド本社配信の記事を再編集の上掲載しています