世界中の企業が2021年以降へと長期的に続く新型コロナウイルスの影響に対応するための体制作りを迫られています。多くの企業にとってのパンデミックによる人材に関する影響は、リモート勤務者の大幅な増加です。
感染拡大防止対策としてソーシャルディスタンスが求められたことによって、屋内環境に大人数を収容できなくなり、可能な場合には在宅勤務が推奨されています。リモートワークはコロナ禍以前から存在していましたが(※1)、これによって拡大ペースが加速しました。
仕事の場所が分散化する動きは今後ますます一般化し、浸透していくことはほぼ間違いありません。TwitterやSlackなどの大手企業は全従業員に恒久的在宅勤務の選択肢(※2)を提供すると発表し、CRMソフトウェア大手、Salesforceは大部分の従業員を対象にリモートワークとオフィス勤務を組み合わせたハイブリッド型を用意するとして、「9時5時勤務の終焉(※3)」を宣言しています。
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Salesforceが導入するバランス型アプローチが仕事の世界における今後の展開だとすれば、おそらく多くの働き手にとって歓迎すべき進展です。ランスタッド・ワークモニター(※4)レポート2020年12月版では、コロナ禍において従業員からの評価が高かった就労形態が2種類、明らかになっています。在宅勤務とオフィス勤務を組み合わせたハイブリッド型と、仕事とプライベートのバランス調整がしやすいフレックスタイム制です。世界中の回答者の3分の1以上(35%)がハイブリッド型を理想的、24%がフレックスタイム制を好ましいと考えています。
これは企業にとってもプラスになる動きです。職場に一度に集まる人数が減ることによってコストの削減が可能になります。リモートワークによる生産性の向上(※5)を実証したエビデンスもあります。
これらの兆しのすべてが将来の企業の機能におけるリモートワークの重要性の高まりを示すとなれば、この変化に備えることが大切です。
特に重要な検討ポイントが1つあります。リモートオンボーディングに関わる準備です。
リモートオンボーディングを端的に説明すると、遠隔地で働く新入社員の入社手続きを行うことです。物理的に出社せず、社内でそれほどの時間を過ごさない在宅勤務者も、新入社員の入社に関わるさまざまな活動を行う必要があることを忘れてはなりません。
オンボーディングプロセスには以下のような項目が含まれます。
従業員がリモートで働いている場合、オンボーディングに関わるさまざまなプロセスがさらに重要になると言えるでしょう。なぜなら、リモートで働く従業員は、通常、現場で働くことで得られるメリットをすべて得ることは難しいからです。例えば、物理的に出勤し、直接顔を合わせる機会がない在宅勤務者にとって、会社や仲間、組織の気風、職場の雰囲気に慣れ親しむことは難しくなります。
オンボーディングは、全体として、雇用主と従業員との関係性が要です。このプロセスがうまく管理されていれば、新入社員との関係が正しいスタートを切り、双方が前向きで生産的かつ持続的な関係を築くことができます。
純粋な利益的側面から考えても、すべての従業員が各自の役割を順調にスタートさせることは、採用直後の退職を防ぎ、急速な離職(※6)によるコスト面とオペレーション面の混乱を避けることができます。
さらに、オンボーディングに満足し、ポジティブな入社体験をした従業員は誰かにそれを話し、友人、知人に自分が働く会社を勧める可能性が高まり、その結果、エンプロイヤーブランドが高まります。
アメリカのG2がまとめた「従業員の体験を向上させるオンボーディングの50の統計データ(※7)」からは、以下の傾向が確認できました。
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リモートオンボーディングは提供する側にとってもされる側にとっても難題です。新入社員は一人で仕事をする時間が長ければ、自信を持って新しい仕事を始めることが難しくなりますし、マネージャーはオンラインでのオンボーディングプロセスになじみがないかもしれません。
人材管理におけるこの部分を正しく行う大切さを踏まえ、オンボーディングの効果を犠牲にすることなくリモートワークの増加に対応するためにはどのような対策を講じることができるでしょうか。
リモートワークの新規採用者は、勤務初日に職場に姿を現わす基本的メリットのいくつかを逃すことになります。同僚と直接顔を合わせる、周囲の雰囲気や組織の生の空気に慣れるといったことです。
マネージャーは特別な配慮によって新しいリモート勤務者を迎え、チームの一員になったことを実感してもらうことができます。そのための方法はさまざまにありますが、例えば、ちょっとしたプレゼントや企業ロゴ入りアイテム(服やマグカップ、水筒など)を添えたウェルカムパックを贈るのも一つの方法です。
この方法(※8)を取り入れているのがオンラインホワイトボード用ソフトウェアプロバイダーのMiroです。人事責任者のAJ・ジョセフソン氏は、企業文化のシンボルを贈り、リモート勤務者に会社側が気に掛けていることや、歓迎された実感を持って欲しいと思っている気持ちを伝えることが大切だと話しています。
また、新規採用者を徐々に仲間に紹介するためにどのような方法が最も適しているかを考える必要があります。1回のビデオ通話に全員を集めるのは新任者にとって気後れするかもしれませんし、現実的ではないでしょう。ですから主要メンバーや少人数のチームを1~2週間かけて徐々に引き合わせるオンラインミーティングを計画するとよいかもしれません。こうすることで、リモート勤務者も追い立てられることなく、落ち着いて徐々にチームメンバーと面識ができます。
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テクノロジーを活用する
対面からリモートへとオンボーディングプロセスを移行させるうえで、最新テクノロジーはすべての企業が手に入れることができる最も価値ある資産の一つです。
オンボーディングプロセスをより簡単に効率的に進めるためのツールはさまざまにあります。例えば、DocuSign(※9)。雇用契約その他の文書の電子署名や電子管理ができます。Slack(※10)などのインスタントメッセージ、プロジェクト管理用プラットフォームを使うとリモートでの共同作業が円滑化します。所在地がばらばらのチームも常に連絡が取れ、リアルタイムでデータを共有できます。
テクノロジーに関してもう一つ検討すべき重要ポイントは、正しい職務遂行に必要な機器類、ツールにリモート勤務者がきちんとアクセスできる状態にしておくこと。勤務を開始する前に設定を済ませ、操作に慣れるために事前にノートPCを送ったり、必要な専用ソフトウェアやクラウドプラットフォームへのアクセス権を付与したりもこれに含まれます。また、こうしたテクノロジーツールを効果的に使うための適切なトレーニングやITサポートの提供も必要です。これまでになじみのないアプリケーションやソフトウェアを使用する場合は特に大事なポイントです。
21世紀の企業と人事において、特にリモートオンボーディングにおいてテクノロジーツールが大きな役割を果たしているのは事実ですが、テクノロジーは人と人との関わりの代わりにはならないことを再認識することが大切です。
リモート勤務者には、職場にいれば自然に起きる頻繁な人との交わりも会話もありません。従い、これをオンライン環境でいかに再現できるかを考える必要があります。
Miroでは、従業員を少人数グループに分け、互いに親しく交流する機会を促しています。従業員をアムステルダムオフィスに招いたオンラインボードゲーム大会も開催しています。
Monsterのグローバル人材開発ディレクター、カエリン・フィリップス氏は新しいリモート勤務者をチームメンバーに紹介する際は、Miroが行っている通り、必ずしも仕事に直結させる必要はないと指摘します。
フィリップス氏は、対面であろうとリモートであろうと、オンボーディングプロセスは人が中心でなければならない(※11)と強調します。
「オンボーディングプロセスとはつながりを築くことであり、自分を求め、温かく迎え入れてくれる場所に加わった実感を得ることです」
リモート勤務者を一度に大量採用する場合は、互いに学び、一緒に組織になじんでいくバディ制度を取り入れると大いに効果的です。学習や成長の支えになるだけでなく、連帯感や仲間意識を醸成でき、ほとんどの仕事時間を一人で過ごすリモート勤務者にとって大きな価値があります。
もう一つ効果が期待できる方法がメンター制度(※12)です。組織に新しい仲間が加わった時にメンターを割り当てると、組織のことをいち早く知り、なじみやすくなります。その結果、潜在能力を十分に発揮し、生産性の高いチームの一員に成長します。
メンター制度は経験者が数年をかけて徐々に習得してきたソフトスキルや知識の伝授にも有効な方法です。
これらのメリットは、新しい仲間がリモート勤務である場合は特に効果を発揮します。リモート勤務者は1対1の関係性や、メンター制度ならではの柔軟な学習機会をありがたいと思ってくれるはずです。
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リモートオンボーディング専用パッケージを用意する
リモート勤務者に対しても従来のオンボーディングプロセスで大丈夫と油断すると手痛いミスにつながるかもしれません。人事部門はリモート勤務者独自の要望や要件に合わせてリモートオンボーディングパッケージを用意する必要があります。目を通して吸収する時間を見越して事前に渡すのも手です。
パッケージには、新規採用者がそれぞれの職務を問題なく開始するために必要な資料や情報を加えます。会社ポリシーの概略、従業員ハンドブック、ヘルプデスク情報などです。
リモート勤務者がオンラインツールやソフトウェアにアクセスする際の詳しいガイダンス、技術トラブルがあった場合の対処法を加えておくことも大切です。
リモートオンボーディングプロセスは新規採用者が勤務を開始して2~3週間経ったからと言って終わりではありません。その時はそれぞれの役割に落ち着いているように見えるかもしれませんが、聞く機会がなかっただけで心配事や疑問を抱えている場合もあります。
リモート勤務者はオンボーディングの初期段階でフォローアップし、最初の3カ月間、定期的な状況確認が必要です。仕事についてどう思っているか、満足しているか、何か具体的なトレーニングやサポートが必要ではないかを把握できます。
企業によっては、役割の性質や複雑さに応じて丸1年をかけてオンボーディングプロセスを行うこともあります。
新規採用者があなたの会社での仕事生活をできるだけ最善の形でスタートできるようサポートするだけでなく、長期的視点で取り組むことによってリモートオンボーディングプロセスの有効性を把握し、改善点を捉えることができます。
ランスタッドでは、このテーマについて新しいガイドを作成しました。このガイドでは、バーチャルオンボーディングの方法を最適化し、すべての関係者にとって最良の結果を得るために必要ないくつかのステップを推奨しています。
このガイドでは、リモートワーカーのためのトレーニングプランの作成や、同僚との対面を維持することなど、主要な分野でのベストプラクティスを紹介しています。