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ケーススタディ:トヨタのエンプロイヤーブランディング|ランスタッド法人ブログ

作成者: randstad|Aug 12, 2021 3:00:00 PM

トヨタウェイ:人を中心にしたハイテクの未来を目指して

世界の主要自動車メーカーの大半がアルゼンチンに製造工場を置いています。ですが、この国の自動車製造従事者が最も働きたいと思っている企業のトップは何と言ってもトヨタです(2017年ランスタッド・エンプロイヤーブランド・リサーチ アルゼンチン版(※1)において自動車セクター第1位、全体で第3位)。

「『トヨタウェイ』は、継続的改善と人間性の尊重に根差した考え方」であるとアルゼンチントヨタ、人事・経営管理担当ディレクター、アンドレス・マシュー氏は説明します。「ここアルゼンチンでは、従業員に品質向上と生産性の向上への貢献を促し、会社側は雇用の安定を保証し、従業員のスキルと将来に投資します」

国内自動車業界の人材獲得競争が激化する中、アルゼンチントヨタはなぜ競合をリードできているのでしょうか。域内トップクラスの生産性と先進性を実現するために労働組合とどのように協力しているのでしょうか。日本発の企業理念を地球の反対側にある国にどのようにうまくフィットさせ、浸透させているのでしょうか。

Q:アルゼンチンにおいて自動車業界は最も人気のある業種の一つです。働き手にとっての自動車製造の魅力とは何だと思いますか?

アルゼンチン人はかなりのクルマ好きです。運転も大好きです。F1の最初の偉大なるドライバー、ファン・マヌエル・ファンジオがアルゼンチン出身者であり、その後も数多くの人気ドライバーを輩出している事実がそれを物語っています。

運転に対するこうした情熱が自動車製造の伝統へと姿を変え、この国には誇らしくも1世紀を超える自動車製造の歴史があります。メーカーを脇から支えるのが充実した部品サプライヤー、販売店ネットワークです。アルゼンチントヨタが約6,000人を直接雇用する一方で、パートナー企業ネットワークはその何倍もの従業員を抱え、私たちはこのバリューチェーンの全員をコミュニティの一部だと考えています。

トヨタは20年以上前にアルゼンチンに製造拠点を開設し、生産能力は当初の2万台から現在では14万台へと急速に拡大しています。ピックアップトラック、「ハイラックス」は域内のマーケットリーダーであり、特にアルゼンチンの主要産業である農業セクターで需要があります。SUV、「SW4」の製造も行っています。これら大型車はブラジルをはじめとする中南米諸国に数多く輸出し、パートナーであるブラジルトヨタはカローラやエティオスなどの生産が中心です。

Q:働き手にとってのトヨタの人気はどこにあると思いますか?どのようにしてさらに魅力を高めようと思いますか?

エンジニアリングその他の分野の人材(※2)にとってトヨタは安定と機会の島に見えているのだと思います。アルゼンチン経済はこの20年以上大きく変動し、痛みを伴う景気後退が続いています。この間、国内の自動車工場では雇用が不安定になり、全体として数多くの解雇者が発生しています。その一方でアルゼンチントヨタでは事業の拡大と新規雇用を続けています。

信頼性と品質の高さに関するトヨタ車の評判とブランドに対する愛着心が雇用主としての魅力につながっていると思います。販売台数の伸びとともにトヨタ車の機能性と耐久性が認識され、トヨタには明るい未来があると考え始めるのではないでしょうか。

なにより当社は、確かで目的のある持続可能なキャリアパスを提供しています。長く組織に定着してもらいたいと考えていますので、スキル、キャリア開発、福利厚生に継続的な投資を行っています。

国内の主要工科大学から多く採用を行っていますが、私たちが欲しい工学技術を持つ人材は常に不足し、楽観視はできません。そこで学生向けインターンシップなどの制度を強化し、インターンシップ生の多くがその後、正式に入社しています。

人材戦略の柱の一つは多様性のある文化の醸成です。アルゼンチンではエンジニアリング人材に占める女性の割合がいまだ5分の1に止まっており、私たちの最初の目標はリーダーシップ職における女性人材の活用です。このようにして人材プールを広げることが当社の将来に大きく寄与します。

ミレニアル世代にどうアピールするかも強化ポイントの一つです。例えば、この世代が就職先選びにおいて重要視する柔軟な働き方を広げる、ワークライフバランスに配慮するなど。当社の企業文化は日本の従来の慣習に根差している部分も多くありますので容易な変化ではありませんが、今後も優秀な人材を確保するためには重要な取り組みです。

そのための手段として作業配分やシフトパターン計画の改善を行います。非生産部門の従業員にはテレワークを推進しています。メイン工場があるサラテは従業員や当社が望む人材の多くが暮らすブエノスアイレスから車で1時間以上かかるため、特に価値があります。

Q:継続的改善と人間性の尊重というトヨタウェイをどのように体現していますか?

私たちは「どうしたらもっとうまくできるか」を日々自問しています。それが企業としてのDNAと文化の一部です。その多くは小さな改善(「カイゼン」)ですが、積み重ねによって大きな違いになります。チーム同士が日常的に協力して問題点を見つけ、解決策を考えます。優秀なアイディアは世界のトヨタ従業員が参加するコンテストに応募し、南米地域の選出者は日本で行われるグローバル最終選考に参加する栄誉を与えられます。

自動車業界も市場も大きな変化に直面する環境下での人間性の尊重における要は、将来何が待ち受けているかを丁寧に率直に議論し、従業員に対してさまざまな課題に対応するために必要なトレーニングを行い、スキルを身につけてもらうことです。新しいスキルを習得し、将来に少しでも備えられるよう常に従業員に投資を行う必要があります。

Q:トヨタウェイをアルゼンチン組織のニーズや文化にどのようにフィットさせていますか?

アルゼンチン固有の文化を踏まえつつ、トヨタの価値観を伝えるためには、もちろん若干の調整が必要です。私たちの一番の目標は市場内の優秀な人材はもちろん、組織になじめる人材を集めることです。

実はアルゼンチンの従業員と日本の従業員には共通点がたくさんあります。トヨタには単なる組織ではなく、一つのファミリーという意識があります。ここアルゼンチンでは従業員の家族を工場に積極的に招き、当社または当社のパートナー企業周囲のコミュニティの生活にも密接に関わっています。

当初の1,000名から6,000名へと組織が成長したことに伴い、課題も生まれています。従業員とのコミュニケーションと連帯感の醸成です。互いの付き合いの輪がコミュニケーションを広げるうえで役立っていますが、コミュニケーションにおいてはマネジメントの役割が重要であり、生産ラインでは直接顔を合わせた継続的な対話が必要です。それがトヨタウェイの鍵を握ります。

Q:アルゼンチンの自動車業界は常習欠勤の問題を中心に生産性の課題に直面しています。労働慣行を変える際に労働組合の同意を得るのは難しいですか?トヨタではこの問題をどのように克服していますか?

労働組合、従業員との対話が肝要です。当社では欠勤率を8%から3%に抑え、業界内でも最も高い水準の生産性を達成しています。

トヨタが将来に備えるためにも、同じく対話と合意が必要です。私たちは雇用を守り、技能の習得に対する投資に力を注いでいます。だからこそ労働組合も合意内容の調整や現代に見合った労働慣行の変更に協力してくれます。共通の目標に向かって協力しているという意識です。労働組合も成長を維持し、組合員の雇用を守るためには継続的な効率性改善が必要であることを認識しています。

Q:アルゼンチントヨタの将来には何が待ち受けていると思いますか?人材戦略にどのような影響がありますか?

環境保護が最優先課題です。トヨタは現在、電気、天然ガス、ハイブリッドエンジンへのシフトを進め、2050年までにガソリン車の生産を終了します。その結果、製造設備の変更が必要になります。当社のパートナー企業も大きな課題に直面します。サプライヤーは製造変更が求められ、販売店の営業担当者も消費者に対してなぜこの変更が必要なのかを情報提供し、地球にやさしいクルマへの切り替えを促す必要があります。

私たちはまた、新しいビジネスモデルにも目を向けています。マイカーの所有ではなく、総合モビリティサービスのサブスクリプションです。このサービスでは例えば、買い物や週末の遠出などその日の目的に応じて違う大きさや車種のクルマを利用できます。公共交通機関もサービスに含まれています。

組織の点からも人の点からも、こうした変化には意識改革やスキルセットの変更が必要です。世界の急速な変化に合わせた変わる力や機敏さも求められます。従業員が変化を受け入れられるようカルチャー改革も必要です。

ナレッジベース:アルゼンチントヨタからの学び

  • 小さな改善の積み重ねがやがて大きな違いになる
  • エンジニアの間では転職は珍しくなく、その一方で多くは安定性と長期的成長に貢献できるチャンスを求めている
  • 現代に合わせるための変革を成功させるには、従業員の理解と賛同が必要

 

アンドレス・マシュー

アルゼンチントヨタ、人事・経営管理担当ディレクター

経営学部を卒業後、MBA課程に進む。金融サービス業界で数年勤めた後、トヨタに入社し、財務部に10年勤務。人事チームの責任者として2年前から現職。周囲と密接に協力し、組織内の全員とのコミュニケーションを絶やさない。今後取り組む課題はリージョンおよびグローバル戦略の立案、実行と、ワンチームとして協力するための実務や目標の整合化など。家族は妻と双子の娘たち。プライベートでは家族旅行、テニス、ランニングを楽しんでいる。

[参考]
※1 https://www.randstad.com/workforce-insights/employer-branding/
※2 https://workforceinsights.randstad.com/employer-brand-engineering-sector-report-2018