従業員の健康を保ち、パフォーマンスを発揮してもらうための取り組みを行っていますか。従業員のプライベートの充実と心身の健康維持に努め、仕事を楽しむ意欲を向上させる「ウェルビーイング」。その考え方は、広く浸透しつつあります。そして近年では、健康管理や健康増進による従業員と組織の活性化により、業績向上を目指す「健康経営」が注目を集めています。今の従業員に、より良いパフォーマンスを発揮できる状態で長く働いてもらうためには、どうすれば良いのでしょうか。企業の実際の取り組みと共にご紹介します。
新型コロナウイルスの影響により、経営者にとって「従業員の健康維持」は非常に大きな経営課題となりました。従業員の健康維持がパフォーマンスの向上につながり、企業の成功につながることが分かっています。これからは単に適正賃金と安全な職場環境を提供するだけでなく、従業員が本当に必要とする支援や手助けをどのように提供するか、さらに踏み込んで考える必要があるのです。
デロイトの調査報告書、「グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド2020(英語)」によると、80%もの企業が今後12~18カ月の企業の成功における重要要因の一つとして「従業員の健康」を挙げています。その一方で、「この課題に対応できている」と答えた企業はわずか12%。多くの企業が試行錯誤している現状が見てとれます。
多くの企業が取り組みをはじめた「健康経営」。そのメリットは、主に下記の3つです。
それでは、企業はどの様に健康経営に取り組んでいるのでしょうか。健康ケアの具体的な事例をご紹介します。
従業員の健康維持サポートは、「あたなを大切に思っています」という企業からのメッセージ。真摯に対応してもらえることで、従業員は企業に対して信頼感を抱き、エンゲージメントやエンプロイヤーブランド(魅力度)が高まります。
ある従業員が腰を痛めて休業。腰痛のため、現在の配置では勤務継続が難しく悩んでいる
状況を企業に相談。企業側は腰痛への配慮で、身体に負担のかからない部署へと配置変更しました。その後は身体の負担が軽減され、欠勤せずに働けるように。健康に配慮してもらえたことで企業に対して強い感謝の気持ちが生まれ、従業員のエンゲージメントが高まりました。
喘息の持病を持つ従業員が、コロナ禍での通勤に不安を抱えていました。テレワークでの勤務ができないかを企業に打診したところ、業務を集約して出社日を減らし、在宅勤務が実現。その勤務形態は緊急事態宣言が解除された後も継続し、現在も続いています。
体調を崩して通院が必要となった従業員。当初は本人が内緒にしていましたが、企業側に伝えたところ「事前に伝えてもらえれば問題ない」と、時間的に配慮するなど寛容な対応をしてもらえることに。このように柔軟な待遇を考慮してもらえる企業は人材募集時に魅力的に映り、採用力が向上します。
言葉遣いが厳しい社員とのコミュニケーションにストレスを感じていた従業員。企業側は、指揮命令者に柔和なコミュニケーションをとってもらうよう依頼。指揮命令者も「そんなつもりはなかった」と口調を意識し、コミュニケーションの改善を図りました。事態が深刻化する前に人間関係が改善され、従業員も対応に満足し、ストレスが解消されたことで就業を継続しています。
ランスタッドが独自に行った調査によると、中途採用者や派遣従業員にとって“就業開始時”の企業側の対応が、その後の仕事の継続において非常に重要な要素であることも明らかになりました。
就業初期につまずくと、ごく短期間での離職に至る場合や、辞めないまでも不満や不安を抱えて実力が発揮できず、パフォーマンスが低下する事態に。ウェルビーイングの状態であるためには、フィジカルな健康維持と同様にメンタルヘルスのケアも大切であることは間違いありません。就業継続と生産性向上のために、新たに従業員を招き入れる際に配慮している企業の実例をご紹介します。
候補者と面談・職場見学を行う際には、実際にやり取りする機会が一番多い実務担当者・OJT担当者と面会する場を設けると人間関係のミスマッチを減らすことができます。いざ実務がはじまれば、実際にコミュニケーションが発生するのは上司ではなく実務担当者。性格や業務の進め方にも相性もあるため、相性が悪いとお互いにとってストレスになります。事前に実務担当者に会っておくことで、相性を見極められます。
指揮命令者や上司は細かな実務を把握していない場合もあり、また、多忙で声をかけづらい・不在で連絡がつかないということも。それで遠慮したり業務が止まったりすることがないよう、サポート体制を整備。実務に近く業務を理解しているポジションから、気軽に質問できる担当者を決めておきます。わからないことがあった時、誰に質問すればよいかが明確になった体制を構築しておくことで、新規従業員の心理的な負担を軽減できます。
ある食品工場では、最初の1カ月は新人とわかるように帽子の色を分け、周囲がサポートできる体制を敷いています。OJTだけではなく、入社のタイミングで座学の教育機会を設けている企業もあります。
既存の従業員や、特に実務に直接関わる担当者からは積極的に声かけをしてもらい、歓迎している雰囲気を作ることも大切です。できたことに対しては褒める、業務についてフィードバックするなどを心がけている企業では、就業開始から間もない従業員も安心して働けます。コロナが収束したら、ウェルカムランチなどで交流の場を設けると良いでしょう。
長期にわたり心身共に健康なウェルビーイングの状態を維持し、パフォーマンスを発揮し続けてもらうために、企業は他にもさまざまな取り組みを行なっています。ワークライフバランスの実現や精神的な安定は、健康経営に欠かせない要素。実際に喜ばれている仕組みの実例をご紹介します。
希望する日に休みが取りやすい、子どもの病気などで突発的に休む場合も気兼ねなく休める、という環境はエンプロヤーブランドが高まる傾向にあります。
製造系でシフト勤務の某企業では、希望する休日を事前に誰でも記入できる共有カレンダーを設置。この仕組みは従業員から好評を得ています。小さな子どもがいる従業員が多い職場では、急な休みにも理解があり、周囲がフォローできる体制が取られている企業が、長期就業につながっています。
公明な査定基準が設けられ、3カ月ごとに基準を満たすと自動的に昇給されるという仕組みを設けている企業があります。明確かつ公平な基準は、従業員のモチベーションの向上に寄与。
また、365日稼働しているあるファクトリーでは、1カ月間皆勤した従業員に手当を支給。正規・非正規雇用問わず手当の対象となるため、従業員から喜ばれています。
週1回程度の定期的なミーティングで、仕事で困っている点はないか、改善できる点はないかを会話すると良いでしょう。お互いに話しやすく相談しやすい関係を構築しておくことで、人間関係での不要なストレスを軽減できます。
さらなる成長を目指す企業にとって、従業員の心身の健康をケアしていく「健康経営」が欠かせない時代となりました。従業員の健康維持をサポートし従業員自身のセルフケアも支えることで、エンプロイヤーブランドが強化され、人材獲得においても高い効果が得られるようになります。
就業開始時の受け入れ体制、長期にわたり就業が継続できる働きやすさ、それぞれの事情に配慮した多様な働き方への対応など。「健康経営」をキーワードとした人事・人材戦略は、今後ますます重要性を増すことでしょう。