多様でインクルーシブな人材構築は、規模や業種を問わず、どの企業も優先課題と捉える必要があります。
経営の観点からすると、ダイバーシティの推進には幅広いメリットがあります。例えば、偏りのない人員構成や生産性の向上、業績アップ(後述)、エンプロイヤーブランドの強化などです。
ですが何よりも重要なポイントは、ダイバーシティ&インクルージョンの概念は人材に関わる話だということです。真にインクルーシブな組織は、年齢や民族、宗教、ジェンダー、性的指向などにかかわらず従業員一人ひとりを個として尊重し、重んじます。
この理念に取り組むことによって、組織にとっても従業員にとっても長期的にプラスの結果がもたらされます。
採用活動やワークフォースマネジメントの根幹にダイバーシティ&インクルージョンを据えることによって、すべての求職者と従業員が職場で貢献し、潜在能力を存分に発揮する公平な機会を得られます。道徳や倫理的観点から純粋に大切であることはもちろん、多様性のあるチーム作りはスタッフの職場での幸福、生産性、業績にも重要な意味があります。
違いや多様性が尊重され、進歩的で開かれた物の見方が評価される組織で働きたいという願望が働き手の間にますます広がっています。将来のビジネスと職場の中心的存在となる若い世代では特にそうです。Monsterが2020年に行った求職者状況調査(State of the Candidate Survey)によると、Z世代の求職者の5人に4人以上(83%)は、その企業がダイバーシティとインクルージョンに取り組んでいるかどうかが就職先選びの重要な基準になると答えています。
また、雇用主から十分な支援を受け、尊重されていると実感している従業員は、幸福を感じ、仕事に積極的に取り組み、生産性が上がる可能性が高まります。採用や人材管理にダイバーシティ&インクルージョンの視点を取り入れることによって、従業員一人ひとりを唯一無二の存在と認識していることや、ジェンダーや民族などの属性にかかわらず条件を満たしたすべての候補者に力を示す機会を与える姿勢を伝えることができます。
世界経済フォーラムでも取り上げられた通り、職場のダイバーシティに関するビジネスケースは今や枚挙にいとまがありません。ビジェイ・エスワラン氏は経歴や経験がさまざまに異なる人材が一体化することがイノベーションの原動力になると指摘しています。これは、ニューヨーク、ドバイ、ロンドン、シンガポールをはじめとする繁栄した中核都市に大規模に見て取ることができます。いずれも多様な住民が暮らす国際的「るつぼ」です。
マッキンゼーなどの企業がこのテーマに特化して行った調査にも多様性のあるチーム作り、特にシニアレベルでの多様性によって実現できるビジネスメリットが明確に示されています。グローバルシリーズとしてこれまでに3つの調査結果が公表されていますが(Why Diversity Matters (2015)、Delivering through Diversity (2018)、Diversity Wins (2020))、最新の調査結果によると、経営陣の多様性と業績向上の関係は時間の経過とともに強まることがわかっています。
この結論はボストン コンサルティング グループの別の調査によって裏付けられ、経営陣の多様性が平均を上回る企業はイノベーションによる成果とEBITマージンが優れているという結果が示されています。
ダイバーシティ&インクルージョンの推進によって企業が得られるメリットが明らかであることを考えると、HR戦略の根幹にこの理念を据えるためにどのような前向きな手段を講じることができるかの検討がまさしく重要です。
有効で持続性のある組織の柱にするためには、人材のダイバーシティ&インクルージョンを文化に浸透させる必要があります。一つの部署やチームのレベルで変化を引き起こすだけの縦割り主義では十分ではありません。組織全体でこの使命に全力で取り組み、その重要性を認識しなければなりません。
この際の要点は、ダイバーシティ&インクルージョンの推進に経営陣が全面的に関与し、その取り組みから最善の結果を得るために必要な支援をいとわない姿勢でいることです。取締役会の後ろ盾は、ダイバーシティ&インクルージョンの価値を強く訴えるあなたにかかっています。ダイバーシティを推し進めるためのさまざまなイニシアティブや活動と組織のもっと大きな目標とを直接的に紐付けることもまた重要です。
例えば、新規市場参入を計画している最中であれば、顧客の幅広いニーズや期待を理解するために人材の多様性がどのように役立つか検討してみるとよいでしょう。
ダイバーシティの強化に向けて幹部ステークホルダーや意思決定者の全面的なバックアップを得ることは、企業文化の根幹にダイバーシティを組み込む道筋の重要ステップです。
多様でインクルーシブな人材構築に本格的に乗り出すどの企業にとっても、採用活動の戦略と実務の最適化が優先課題の一つであることは間違いありません。幸いなことに、採用プロセスの各段階で偏見を排除し、できる限り幅広い求職者から応募を促すためにできることはたくさんあります。
まずは、インクルージョンを最大限意識しながら職務明細書を慎重に作成することが大切です。例えば、不必要な専門用語やジェンダーを示唆する言葉、そのポジションに対して特定グループを排除したり、歓迎しないことをうかがわせる言葉を避けます。
また、応募条件の説明では必須スキルのみを挙げ、「尚可」の資格・条件は省くのが賢明です。LinkedInはジェンダーインサイトレポート の中でインクルージョンに配慮した求人情報のための有効な手段としてこの点を強調しています。レポートでは女性は男性と比べて応募件数が20%少ない、求人情報を見た後に応募する可能性が16%低いという結果が報告されています。
採用プロセスではすべての段階でダイバーシティ&インクルージョンを強調する必要があります。面接などの重要ステップではこの点に注意が必要です。可能であれば、(意識、無意識の)偏見のリスクをできる限り抑えるため、多様性のある面接官グループを結成し、面接を受ける応募者全員に、組織に加われば歓迎され、キャリアアップの機会を与えられると示しましょう。
もう一つの重要ステップは面接を標準化し、全応募者共通の構成にすることです。
ダイバーシティ&インクルージョンに本腰を入れ、根本からの持続的な変化を望むのであれば、このテーマに特化した教育研修のメリットを考えてみるのが得策です。
以下のような重要問題について組織全体で議論や理解が必要だと感じているならば、有効な手段になり得ます。
職場の中にもこのテーマについてもっと詳しく知りたい、誰かに質問したい、けれどいつどこでその悩みを解決してよいかわからないと思っている人がいるはずです。特化した研修なら率直に話し合い、有益な情報を共有し、この大義に該当する各種トピックの認識を高める良い機会になります。
その先は、ダイバーシティ&インクルージョンが1回の研修で完結し、終わったら忘れてもよいものではなく、継続的な使命であることを明確にする必要があります。組織変革を専門に手掛けるコンサルティング会社、SYPartnersのアソシエートプリンシパル、サブリナ・クラーク氏は、考え方や行動を持続的に変えるための一つの方法として、経営陣または管理職ではない人員で専任グループを結成し、タスクを任せることを挙げています。グループには変化の推進に必要なスキルや情報を身につけさせ、チームや部署の中で模範を示してもらいます。
職場のダイバーシティ&インクルージョンは今や企業にとって極めて重要な検討事項です。この概念は変化も激しく、繊細であるため、常に新しい情報に目を光らせておくことが賢明です。そうすれば組織と人員のために自信を持って判断を下すことができます。
ランスタッドは、真に多様性のある職場作りのための各段階を詳しく解説したガイドを作成しました。ダイバーシティ&インクルージョンと利益の関係性、なぜこの概念の実現が難しいのかといったトピックを掘り下げています。そのほかにも、採用活動におけるダイバーシティの推進に役立つ戦略を提案しています。