ダイバシティー推進の下、女性活躍推進が叫ばれていますが、このような世情で、男性の活躍については考えられているのでしょうか?実は、そこにも違った大変さがあり、課題が隠れているのです。
ダイバーシティの推進は「マイノリティの課題を取り除くこと」だと言えます。例えば女性活躍推進は、育児との両立支援やキャリア研修、また社員のネットワーク形成などの施策を講じることで、女性が働きやすく、またキャリア形成しやすくします。重要なことは、女性ならではの課題を男性側も理解することであり、それがこのシリーズの第3回でお伝えしたことです。
しかしながらマイノリティの課題はマジョリティの課題と表裏一体、そして実はマジョリティの側にもまた違った大変さがあり、そこに切り込んで解決せずして本当の意味でのインクルーシブな組織、働きやすい職場を作りはできません。今回は男性側のインクルージョンについて考えたいと思います。
(このシリーズはランスタッドのHRヘッドが経営の視点から人事の未来を語るコラムです。ビジネスの環境変化や社員のニーズをどのように組織開発に反映し、またコンフリクトやジレンマをどのように乗り越えているか、リアルタイムの試行錯誤をお伝えします。)
多くの企業で女性管理職割合の目標値が掲げられるようになったにも関わらず、女性管理職はなかなか増えません。その背景には「女性が管理職になることを拒否または遠慮する」という現象があります。これについて私の持論はこうです。女性が拒否するのは、多くの場合、会社(あるいは上司)が女性に対し「管理職になりたいか?」と尋ねるからではないでしょうか。尋ねられれば女性はノーと言うものです。何故なら尋ねられることの裏に、「断るだろう」という前提や、「断ることができる」という選択肢の存在と期待を敏感に感じとるからです。つまり「予言の自己成就」の結果として、女性の管理職拒否があると私は見ています。それへの処方箋は簡単で、断るだろうなどという予断を持たず昇格を命じればよいのです。
一方、上司が男性部下に対して管理職への昇格を拒否するのではないかと危惧することは稀で、むしろ「男なら上を目指して当然」「出世はポジティブ」であることを微塵も疑わずグッドニュースとして「管理職への昇格」を伝えることでしょう。しかし全ての男性に管理職の適性があるわけではなく、また何らかの理由で管理職を引き受けられない状況もあるかもしれません。男性の生き方や価値観も多様化してきています。従って男性へのアプローチにおいては「男性だったら昇進は受けて当然」という思い込みを無くすことがむしろ必要になってきています。
第3回で書いたように、組織で働く男性には女性のような足枷はありません。しかしながらそれと引き換えに常に仕事優先が求められ、家庭やプライベートの事情を会社に配慮してもらうことが難しいという現実があります。未だに低い男性の育児休業取得率にもそれは現れています。会社だけでなく家族や友人、あるいは自分自身の中にある「男は甲斐性」のような前提に生きづらさを感じている男性も少なくないと思います。
家計を背負い、(断る選択肢無く)異動や昇進を受け入れ、さらに最近では家事や育児も期待されている。あるべき道から少しでも外れた場合のペナルティは男性のほうが厳しいとも言えます。男性の大変さは、その多くが無自覚だからこそ身体と心を蝕んでいきます。実際、「男性の産後うつ」というキーワードも聞かれるようになってきました。
かつてはパートナーの男性に経済力を求める女性が多かったものですが、昨今では高収入よりも家事を分担してくれる男性が選ばれるようになってきました。
企業においても多様なリーダーシップが求められる今、女性の管理職が増えることで人材を効果的に活用し、組織の力を引き出すと同時に、男性が自分の価値観に合った生き方を選べるようにもなります。「管理職はこうあるべき」が女性リーダーによって変わるように、「家事や育児はこうあるべき」が男性の参画によって多様性のあるものに変わっていけば、それは誰にとっても生きやすい社会の形成につながるのではないでしょうか?
どちらが優遇されていてどちらが損しているという対立軸ではなく、それぞれが自分らしく活躍できる組織や社会を作るのがダイバーシティ&インクルージョンの目的なのです。
【筆者プロフィール】
金子 久子(かねこ ひさこ)
ランスタッド株式会社 人事本部 取締役 兼 最高人事責任者(CHRO)