世間が抱くエンプロイヤーブランドと実像とのギャップ。気にしている会社も多いのでは?今回は、ドイツを代表する企業であるシーメンスのギャップに対する取組みをご紹介します。
エンプロイヤーブランドが、現在の会社の本当の姿を反映しているとは限りません。シーメンスにとっても、これは頭の痛い問題でした。同社のエンプロイヤーブランディング部門のグローバルディレクター(Global Director of Employer Branding)、クリストフ・ノーン(Christoph Knorn)氏は次のように述べています。
「当社の事業内容とそのアプローチは、非常に革新的でやりがいにあふれています。しかし当社のエンプロイヤーブランドは、そのことを十分に伝えきれていません。就職活動中の学生に当社のイメージをたずねると、“やや堅苦しい”“古いタイプの会社”という答えが多く返ってきます。」
クリストフと彼のチームは、どのようにしてシーメンスの真の姿を伝えるエンプロイヤーブランドをつくり上げ、世間のイメージを変え、人材獲得に成果を上げようとしているのでしょうか?
シーメンスは、未来をつくる力となる企業を目指しています。当社の研究チームは、今までにないソリューションやサービスの開発に取り組んでいます。また製造業向けソリューションでは、次世代の製造施設における現実世界と仮想世界の融合を可能にしつつあります。
さらに、電化部門なども、イノベーションを用いた効率性の向上と再生可能エネルギーの利用によって変革を遂げつつあります。例えば、エジプトの発電量を40%以上押し上げるプロジェクトは、最新のエンジニアリング技術が生んだ大きな成果であると同時に、現地のパートナーシップとコンサルテーションの賜物でもあります。プロジェクトに付随した、現地での教育研修や技能育成も変化をもたらす活動です。電力供給の安定化が人々の生活をより良いものにする可能性は、測り知れないものがあります。
シーメンスではこうしたイノベーションを可能にするために、好奇心と実践を重んじる企業文化を醸成しています。自分に合ったやり方で、柔軟かつ協力しながら働くことを推奨する職場環境を整えてきました。また、当社のすべての事業には、人間的な側面も備わっています。私たちはこれを「making real what matters」と名付けました。データだけでは解決策は生み出せません。顧客、クリエイター、開発者が一体となって学び、協力し合えるよう業務を進めているのです。
シーメンスは、かなりの速さで非常に大きな変化を遂げたため、今や大半の人々が、現在の事業や理念を把握できなくなっています。当社は未来のエンジニアリング企業として、エンジニアもいればデータサイエンティストやクラウドアーキテクト、ロボティクス研究者、コンサルタントも擁する企業であり、非常に魅力的で多彩な雇用を提供する企業だという認知を望んでいます。
しかし、就職志望者の多くは、いまだに過去のシーメンスのイメージを持ち続けています。その理由としては、多くの人々のシーメンスに対するイメージが、過去に店頭でよく目にした当社の家電製品によってつくられた経緯があります。すでに家電事業は売却されているのですが、そのイメージが残っているのです。
また、長い歴史を持つ企業のため、当社は変化を好まず、融通のきかない体質だと思われがちです。例えば、当社が柔軟な働き方を積極的に推進するつもりだと学生に告げると、非常に驚かれます。こうした先入観は人材採用、とりわけ米国のIT企業のように若々しく洗練されたイメージの企業との人材獲得競争において、不利に働いてしまいます。
シーメンスはこれまで、自社の魅力を伝えること控えめすぎました。最高の職場を目指すのであれば、自社の持つストーリーを堂々と発信していく必要があります。会社の実際の姿として本社から提示される写真やメッセージは、思ったほど人々の目に留まりません。真のシーメンスを知ってもらうには、エンプロイヤーブランディングの役割を従業員に担ってもらい、発信してもらうべきです。この改革を「キャンペーン」ではなく「プログラム」と呼ぶ理由もそこにあります。
従業員に参加してもらう主な手段として、彼らのストーリーを共有する場を設けています。より彼らの参加を促し、ストーリーを引き出すため、当社は360度カメラを使って、世界各地の拠点で従業員の働く姿、同僚や顧客とのやり取り、アイデアを生み出す様子を記録してきました。
現在*1、これらのストーリーの一部を、公開中の「Future Makers Siemens 360」アプリで紹介するために選定しています。ソーラーシステムの研究やインドの貧困地域への教育サービス支援など、さまざまな動画が、見る人をシーメンス従業員が変革を起こしつつある世界へと誘います。従業員は案内役として、自らのモチベーションや情熱を伝えています。
第2のステップとして、本社の編集チームも従業員がストーリーを共有しやすくなるよう支援もしています。これらのストーリーは記事やポッドキャスト、映画の形で紹介され、シーメンスで働く真の意味と、実際に働いている優秀で多様な従業員のありのままの姿を見せているのです。
また、対外的なイメージを変えるには、さまざまな方法で働きかけることも重要です。例えば、学生を募集するために単に大学を訪問するのではなく、彼らを「スチューデント・ブランチ」と名づけた食事会に招待しています。会場はたいてい、古い工場やナイトクラブといった、イメージを覆すような場所を選びます。そこを一日貸し切り、学生に当社の従業員と話す場を提供するのです。会場の雰囲気と打ち解けた交流により、シーメンスという会社に学生の抱くイメージを変える効果が期待できます。
「making real what matters」に関しては、社内共通の「マニフェスト」も作成しています。しかしこれを単なるスローガンで終わらせないためには、現場の従業員がマニフェストを自分なりに理解し、現地の事業活動に反映させることが必要です。例えば南アフリカのタウンシップ*2やスウェーデンの地方遠隔地にとって重要な喫緊のニーズは何なのか、その解決にシーメンスは何が提供できるか、という姿勢が大切なのです。
シーメンスが世界で最も魅力的な雇用主の一つになることを望むのであれば、それにふさわしい資本を投じる必要があります。エンプロイヤーブランディングのプログラム策定にあたっては、会社の戦略的優先課題と整合するよう取締役会と緊密に連携し、必要なリソースの妥当性を説明しています。
予算の使途としては、当社の動画「Future Makers」やソーシャルメディアのプロフィール、その他さまざまな展開を担当する外部業者への投資が挙げられます。また、発信されたストーリーに会社からの感謝を示すため、必要に応じてプロフェッショナルな制作にも資金を投じます。制作されたコンテンツのレベルが高ければ、ストーリーはさらにシェアされ、ソーシャルメディア上で多くの人々の目に触れることになります。この結果によって、投稿という形で貢献してくれた従業員は正しく評価されたと感じることが出来るのです。このプログラムの根底にある考え方は、自らのストーリーを語る従業員と企業の双方にとって意義のあるものでなくてはならないということです。
進捗度を測定することにより、有効な取り組みとそうでない取り組みが明らかになるため、それに応じた調整や手直しが可能です。また、投じた資金に対する成果を評価、実証することもできます。
具体的には、従業員エンゲージメントや採用ポスト当たりの志望者数など、定量的な指標のモニタリングが含まれます。また、より全体をとらえた「人間味のある」ブランドイメージを把握するために、定性的なフィードバックも収集します。例えば、学生とのブランチ会を実施した際、彼らが到着した時点でシーメンスに抱くイメージを尋ね、一緒に過ごした後でそれが変化したかどうか再び質問しています。
プログラムの期間は3年で、現在2年ほどが経過しました*1。目に見える変化も出てきたところですが、まだすべきことは数多くあります。これまで資金の多くを社内の取り組みに投じてきましたが、来年はメディアへの支出を増やそうと考えています。3年の期間終了後もプログラムを継続する可能性はありますが、従業員が集中して取り組み、成果を問う意味で、期限を設定することは重要だと私は考えています。
エンプロイヤーブランドとは? 「この企業で働きたい」と思われる 「勤務先としての企業の魅力」を意味します。 エンプロイヤーブランドを高めることは、優れた企業イメージを構成すると同時に、職場環境の改善を重ねることで、「働く人、家族、求職者にとって真に魅力ある企業」を目指すことになります。エンプロイヤーブランドは欧米を中心とした海外では、今や主流の言葉です。 ランスタッドは世界の企業が取り組む「エンプロイヤーブランディング」を日本にも広げ、企業の採用活動や組織力向上、そして働く人と企業の双方が真の力を発揮できる労働市場の創造に貢献することを目指しています。 |