新型コロナウイルスの影響が半年以上続き、これはかなりの長期戦になりそうだという感覚を持つ人も多いと思います。ビジネスの常識や働き方の変化はもはや一時的なものではありません。
そしてこの新しい日常は、実は女性活躍推進の最大のチャンスなのです。
日本政府が以前推進していた202030という女性活躍推進目標が、なんとなくうやむやになりつつある今こそ、改めて女性活躍推進の本質について考えたいと思います。
(このシリーズはランスタッドのHRヘッドが経営の視点から人事の未来を語るコラムです。ビジネスの環境変化や社員のニーズをどのように組織開発に反映し、またコンフリクトやジレンマをどのように乗り越えているか、リアルタイムの試行錯誤をお伝えします。)
女性活躍推進のよくある誤解
しかしながら、女性活躍推進の話をするたびに「女性だけにゲタを履かせるのか」という抵抗があります。女性管理職が少ないのは女性の能力や意欲が男性よりも劣っているためで、それを無理に是正するのはアンフェアだという考え方です。これについてはまず、現在女性が見ている景色がどれほど男性とは違っているかということを理解する必要があります。実はこのことに気づいている人はそれほど多くありません。
例えば、結婚している女性はフルタイムで働くことについて夫や子供、実親や義理の両親の許可さえも必要になります。夫に一定の収入がある場合には特に、女性が「家族を犠牲にしてまでも」働くための理由が求められます。もちろん男性に働く理由は必要ないですし働くのは「家族のため」であり「家族を犠牲にしている」とは言われませんね。
そのハードルを乗り越えて働き、頑張って昇格・昇給しても「夫の機嫌が悪くなる。」この悩みを既婚の女性の口から何度聞いた事でしょう。夫の給料が増えて喜ばない妻はいないものですが。女性の場合、職場での活躍と比例するように身近な人たちとの関係悪化のリスクが高まるのです。しかし夫の不機嫌には、男性が育児・家事をすると「仕事より家庭優先」とレッテルを貼られ出世に響くというペナルティが背景があるようです。自分にはペナルティ、でも妻は出世、それでは不機嫌にもなるでしょう。
また、女性の管理職にとって、「正しい」管理職像の幅は非常に狭く、少しでも強い口調は感情的と言われ、優しい口調は弱いと言われます。管理職の女性は少ないため、同じ境遇を相談できる相手もおらず、友人にも悩みを打ち明けにくくなります。自分を出せる場所が会社にも家庭にもプライベートでも少なくなる状況で、女性が管理職に就くことに躊躇することを、意欲が無いと言って本人の問題にして本当にいいのでしょうか?
数値目標は施策の「結果」
以上のように、今は女性がぬかるみに足を取られそうになりながら一歩ずつ進んでいる状態なのです。女性活躍推進の施策は、女性の目線を足元から少し先に移すために目に見えないアンフェアな足枷を取り除くだけであり、男性よりも何かを有利にすることではありません。
KPIである女性の管理職比率が上がるのはこれらの施策の結果であって目的ではありません。アンコンシャスバイアスを取り除くことによって、組織のリーダーを(捧げられる時間ではなく)本来の能力や適性によって選ぶことができる、それが人材活用の本質なのです。
【筆者プロフィール】
金子 久子(かねこ ひさこ)
ランスタッド株式会社 人事本部 取締役 兼 最高人事責任者(CHRO)