世界の先陣を切り超高齢社会に突入している日本。生産人口の減少による深刻な人材不足に直面し、女性活躍の重要性が声高に叫ばれています。それにもかかわらず、世界経済フォーラム(WEF)が各国の男女平等レベルを調査した「ジェンダーギャップ指数」において、日本は153カ国中121位。WEFによると、このままでは男女の経済格差をなくすのに200年以上かかるそうです。この問題を抱えたまま、本当に女性活躍は実現するのでしょうか? 男女の給与格差は従業員に負の影響を与えるだけでなく、企業自体にもリスク及ぼすことを知っていますか?
女性活躍推進法が施行されても、同一労働同一賃金が始まろうとしていても、男女の間には依然大きな所得格差・給与格差が存在しています。
経済誌に掲載されたある研究では、労働者が不公平な賃金格差を自覚すると生産性や出勤率が低下することが証明されています(※1)。また、マサチューセッツ工科大学の研究では、労働者が賃金格差に気付いた時、生産高は最大で52%も低下しました(※2)。
不合理に低賃金に抑えられている女性は会社へのエンゲージメントが低い傾向があり、生産性が上がらないだけでなく、より良い就労条件を求めて社外へ流出しやすくもなるのです。
※1出典:The Morale Effects of Pay Inequality
※2出典:THE MORALE EFFECTS OF PAY INEQUALITY
これにより企業が受けるダメージは、生産効率の悪化や人材不足による競争力の低下だけではありません。不平等な賃金体系を改善する姿勢を見せない企業には、企業のブランド価値や魅力度(エンプロイヤーブランド)が低下するなどの悪影響があると懸念されます。
さらに、世界的に「ESG投資」で企業を評価する投資家が増えている流れの中、投資対象から外され事業継続が危ぶまれるリスクも生じています。
ESG投資とは、E=Environmental、S=Social、G= Governance のこと。環境配慮・社会貢献・企業統治に配慮している企業を重視して投資先を選別する考え方です。投資家が企業の将来性や持続性を判断する際、従来のように業績や財務状況だけではなく、ESGの3つの課題に対する取り組みを評価する動きが広がりを見せています。
男女間で不合理な給与格差がある企業や女性管理職が少ない企業は、ダイバーシティへの意識が低いと判断され株価の低迷を招く可能性があるのです。
経済産業省と東京証券取引所は共同で、女性活躍推進に優れた企業を「なでしこ銘柄」として選定しています(※)。中長期の企業価値向上を重視し安定的なリターンを求める投資家にとって、女性の活躍を進める企業は魅力的な銘柄。実際に、なでしこ銘柄に選ばれた企業の利益率は、東証一部銘柄の平均値と比較して高いことが分かっています。
裏を返せば、女性活躍が進まない企業は投資先としての魅力を自ら下げ、その可能性を手放していると言えるのです。
※出典:「女性活躍に優れた上場企業を選定『なでしこ銘柄』」経済産業省
主要先進国の中で、フルタイム労働者の男女賃金格差が飛び抜けて大きい日本。「厚生労働省 平成30年賃金構造基本統計調査」によると、社会に出て働き始めた時点で既に男女の賃金は同等ではなく、賃金がピークに達する50~54歳では非常に大きな格差が生じていることが分かります。
なぜ日本では男女の賃金格差がこんなにも大きくなっているのでしょうか。
正社員・正職員の賃金の年齢による推移
(単位:千円)
出典: 厚生労働省 平成30年賃金構造基本統計調査よりランスタッド作成
将来の幹部候補でもあり幅広い業務に携わる「総合職」と、転勤や異動が少なく補助的な業務を担うことの多い「一般職」がある企業では、総合職=男性大多数/一般職=女性大多数というケースが多くあります。大抵の場合一般職の賃金の方が総合職よりも低いため、これだけで自然と男女格差が生まれてしまいます。
男性は50代に向かって賃金が大きく上昇していくのに対し、女性の賃金の上昇は緩やか。これは管理職や経営層に女性が少なく、昇給幅が小さいことも影響しています。
産休・育休でキャリアや収入が一時的に途絶えることに加え、復職後に仕事にやりがいを見出せずキャリアアップへの意欲を失ってしまう女性が多くいます。女性の子育て負担の割合が多く両立が難ししいことに加え、時短勤務社員にはアシスタント的なポストを用意されがちなことも要因と考えられます。
“どう生きるか”“どう働くか”は、性別ではなく個人の希望や意思・能力を尊重すべきこと。しかし高度成長期に典型的だった「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という性別役割分業の意識が、令和の時代になっても日本には根強く残っています。この古い価値観やアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)は社員育成や評価などに影響を与えるため、制度のみを改革しても男女格差は改善しません。
「女性には重要な仕事を任せられない」
「女性は管理職になりたがらない」
「男性は論理的、女性は感情的」
「男性が育休を取るなんて」
こういった考え方はアンコンシャス・バイアスの典型です。意識しないまま、物事を歪めて捉えている可能性があります。
誰もが働きやすい環境作りや制度改革はもちろん重要ですが、それ以前にダイバーシティ経営の大きな障害となっているのは考え方や意識の問題かもしれません。社内に下記のような慣例や思い込みはないでしょうか?
男性管理者が一方的に「女性向き」と考えて割り振っている職種・業務はありませんか。その業務が職能の下層に置かれていたり、賃金が低く設定されていたりはしませんか。
女性は男性のアシスタント役ではありません。
就業時間内で終わらないほどの業務過多の状態。会議のスタート時間が終業時間後である。このような職場環境になってはいませんか?それは家事・育児をメインで担う従業員が十分に活躍できず、且つそのパートナーを家事・育児から遠ざける環境も作り出しているとは思いませんか?
日本では家事・育児を女性が担い、男性を含む制約の少ない従業員で業務をなんとか回しているというのが現状かもしれませんが、それは女性の活躍の障がいとなっているとも言えます。男性が家事・育児に積極的に関わっていくためにも、残業ありきの環境は変えていく必要があります。そして、それは性別や制約の有無に関わらず、「みんなが活躍しやすい職場」にもつながるのです。
「女性に管理職を任せられる人材がいない」という声が聞かれますが、男女に等しく成長機会を与え、性差なくその能力で評価しているでしょうか。女性従業員は男性に比べ、育成機会を与えられていないケースが見受けられます。男性上司が過剰に気を使い、成長につながる重責ある業務を女性に任せないというケースもあるようです。
また、能力ではなく勤続年数や在職年数を管理職の条件にすると、産休や育休を取得した時点で女性は大きなハンデを負うことになってしまいます。
そもそも女性がリーダーを目指したいと思える職場環境でしょうか。女性従業員が自身の成長やキャリアアップをイメージできるようにすること、子育て・介護などのライフイベントがあってもキャリアを継続できる仕組みを整えることが重要です。
また、女性管理職の育成にはロールモデルが大きな役割を果たします。目標となり、時には相談できる、ロールモデルとなる女性は社内に複数名いますか?
従業員のエンゲージメントを高め、多様な人材が活躍できる土壌を作るためには、今すぐ動き出さなければなりません。女性の活躍と男女の給与格差解消に向けた改善のステップをご紹介します。
多様な価値観が生まれ、消費者ニーズが変化していく現代。イノベーションを創出する新たな商品・サービスを生み出すためにも、女性に限らず多様な人材が活躍できるダイバーシティ経営が求められています。このまま何も手を打たず、男女の経済格差が解消されるという23世紀を待っていた場合、果たして会社は存続しているのでしょうか?
多様な人材の多様な働き方が認められる平等・公平な職場環境を整え、女性管理職が当たり前という会社になることが、これからの時代に勝ち残る企業の必須条件となるでしょう。
本コラムは、ランスタッド・エヌ・ヴィーが制作したコンテンツをベースに加筆しています。
原文(英語のみ):is the gender pay gap hurting your workforce’s performance?