「ダイバーシティの実現」という目標を掲げ、実践する企業が増えています。近年は「多様性」に「包含する」という意味をプラスした、「ダイバーシティ&インクルージョン(diversity&inclusion)」というキーワードも広まりつつあります。しかし“多様性”と言っても、その言葉がカバーする領域が非常に幅広く、解釈もさまざま。今回は、同じ国籍、同じ言語、同一性の高い文化が当たり前の環境だった日本企業の現状を踏まえながら、多様性を受容することで企業にもたらされるメリットについて考えていきます。
同じ会社の中で働くチーム内に、国籍や母国語がそれぞれ異なるメンバーが複数名在籍している。一人ひとりが育ってきた環境、各国の文化やビジネススタイルを尊重しながら、お互いに密なコミュニケーションを取り合う——。
それらを“日常的な風景”として当たり前に受け入れられる日本人は、現時点では決して多くないのが実情のようです。
2019年にランスタッドが実施した外国人労働者の受け入れに関するグローバル調査において、「さまざまなバックグラウンドを持つ同僚と働きたい」と回答した日本人労働者は、44.0%にとどまりました。
TOP3のインド、メキシコ、中国をはじめとする21ヶ国ではポジティブな回答が80%を超えており、グローバル平均は79.4%。他国と比較すると日本の結果は44%で、調査が行われた世界34の国と地域の中では最下位の結果です。
同じ国籍、同じ言語、そして同一性の高い文化やビジネススタイルの中で働くことが当たり前だった日本人。「多様性の受容」についてその重要性が叫ばれるようになって久しいですが、異なる文化圏の出身者とのコミュニケーションに対する苦手意識は、まだまだ根強いと言えます。
「ダイバーシティ(多様性)」という言葉は、国籍や人種に対してのみ適用されるものではありません。今回、企業にとって多様性がなぜ重要なのかを考えていくため、「ダイバーシティ」とはそもそも何か、また合わせて使われる「インクルージョン」は何を指す言葉なのか、改めて根本的な定義を紐解いていきます。
ダイバーシティには、大きく3つの領域があります。
こうした「他者との違い」によって誰もが差別されることなく、多様な人が活躍できる環境を構築すること。それが「ダイバーシティの実現」です。
①は、個人が持つ生まれながらの差異を指します。男女の性差や、LGBTQ(セクシャルマイノリティ)、障がいのある方、異なる国籍や文化圏の出身者に対する配慮などが含まれます。
②は、個人が経験によって得ているものの違い。③はそのプロセスで形成された価値観の違いであり、例えば信仰している宗教やライフスタイル、仕事に対するスタンスなどの差異です。
企業がダイバーシティを実現するメリットは、大きく2つあります。
1つは、新たな視点に立った発想が生まれやすくなること。顧客ニーズが多様になり、ビジネスが複雑化している昨今、様々な立場からの視点やアイデアを取り入れることが、新たな切り口の商品やサービスを生み出す土壌となるのです。
もう1つは、働き手が増えること。これから先、少子高齢化により日本の労働人口は徐々に減少していきます。しかし性別や年齢、国籍に関わらず働くことが可能であれば、働き手の幅が広がるのです。それぞれの特性や働き方に合わせた労働条件を設定し、それを認めることで、働く側のモチベーションも高まり、就業先に対する満足度も上がっていくでしょう。
一方で、デメリットが生じることもあります。
個人の生まれや経験、意見などによって差別が起きない環境があるのは素晴らしいことですが、当然ながら、多様であればあるほどメンバー間の衝突が起きやすくなり、コミュニケーションコストが増加します。ビジネスを進める上で必要な合意形成のハードルが、同質性の高い組織よりも上がることは避けられません。
そこで、ダイバーシティと合わせて実施するべきと考えられているのが「インクルージョン(包含)」です。
インクルージョンとは、個々人が持つ特性や個性などの価値を認め、それをチームや組織全体で受け入れて、それらを自分たちにとっての強みに変えていくことを指します。
チームや組織全体で一人ひとりのメンバーと向き合い、適切な人材配置や役割分担を行っていく。そうして対話を重ね、個々人が力を最大限に発揮できる環境を構築することによって、ビジネスを前進させる原動力にしていくための考え方です。
本当の意味でダイバーシティを実現し、チームや組織の生産性を向上させていくためには、インクルージョンと合わせて推進していく必要があるのです。
冒頭にご紹介した通り、日本人は歴史的にも長い間、同じ国籍、同じ言語、同一性の高い文化の中、特に男性を中心に企業経営を行ってきました。現在も、「同じ価値観の人たちと仕事をした方がコミュニケーションコストが掛からない」「生産性を高める上で、多様性が邪魔になってしまうのでは」と考える方もいるかもしれません。
しかしビジネスを取り巻く環境の変化は年々加速しており、従来“当たり前”とされてきた経営手法や考え方は、すでに過去のものになりつつあります。
今、多くの企業が求めているのは、同質性の高い人たちを集めて安定的な事業を運営することではないはずです。「一人ひとりの違い」をチームや組織の強みに変えて、多様な考え方の中から、これまでになかった新しい発想と、イノベーションを生み出していくこと。そのために必要な施策の一つこそが、ダイバーシティ&インクルージョンの推進に他なりません。ビジネスにスピード感を求められる時代だからこそ、多様性のある組織を形成し、自社のイノベーションに繋がるアイデアを出して行きませんか?