「あの会社で働きたい」——多くの人に、そう感じてもらうためにはどうしたらいいのか。 採用の売り手市場が続く現在、企業にとって、自社の魅力を高めるための取り組みが不可欠となっています。ランスタッドが実施するエンプロイヤーブランド・リサーチ(勤務先としての企業の魅力を測る調査)の結果を紐解いてみると、企業の魅力を高めていく上で、働きがいがあり、自分らしく仕事ができる環境が重要な要素であることが分かります。それを実現している企業には、どの様な共通点があるのでしょうか?
「エンプロイヤーブランド・リサーチ」は、2000年にベルギーのランスタッドで始まった調査です。エンプロイヤーブランディングの重要性は欧米を中心に浸透しつつあり、日本でも2019年までに8回の調査が行われました。
調査結果を読み解いていくと、働き手が企業に求めることは、給与水準の高さや福利厚生の充実だけではないことが分かります。とくに20代から30代は、ワークライフバランスが取りやすいことや、柔軟な働き方の実現などを含む「職場環境」に注目しているようです。
では、単に労働時間を削減したり、働き方の選択肢を増やしたりすればよいかといえば、けっしてそうシンプルな話ではありません。まずはこれまでの企業組織の在り方、考え方をアップデートする必要があります。今回はエンプロイヤーブランド・リサーチで上位となった企業の事例を参考に、「働きがいがあり、自分らしく仕事ができる環境」を実現するためのキーワードを抽出し、それぞれ考察してみたいと思います。
“単に労働時間を減らすだけが働き方改革ではなく、アウトプットの質を高めていくのが最終目標です”(サントリー)
近年の法改正や社会の流れなどを受けて、どの企業も労働時間の削減に頭を悩ませていることと思います。しかし「法律で禁じられたから、労働時間を減らす」ことが、本質的な課題ではないはずです。日本では、長時間オフィスにいて働くことが当たり前の文化となっており、時間あたりの生産性や効率性にあまり目が向けられてきませんでした。そのカルチャーが根強いゆえに、企業側の取り組みに対し、「労働時間を減らせと言われているのに、業務量は減らない」などと、社員から悲痛な声が上がってしまうことも……。
働き手が求めるワークライフバランスや柔軟な働き方の実現は、「生産性をどう向上させるか」という課題と背中合わせです。働きやすい環境と会社の成長、双方を成立させるためにも、視点の転換が必要です。
“若いうちから失敗を恐れず重責を担って成長を促す社風なので、やりがいがある仕事でキャリアを積める”(湖池屋)
業績が好調な企業の特徴の一つに、若手社員が萎縮することなく、伸び伸びと自分の能力を活かしてチャレンジする環境が整っていることも挙げられます。もちろん「何をやってもOK」というわけではありません。失敗から学びを得て、また新たな課題に挑む。その繰り返しによって個人の成長がうながされ、結果的に企業に利益をもたらすサイクルが生まれるのです。
“本質的に大事なのは、その人が何に動かされ、何のために働きたいと思っているのか?にある”(味の素)
エンプロイヤーブランド上位の企業に共通する要素の一つに、「大事にする価値観/スピリットが明確に提示されていること」があります。自分が働いている会社は、どんな姿勢がよしとされていて、どんな価値観を大事にしているのか……? それが不明瞭なままだと、社員はどちらを向いて走ればいいのか迷い、1つ目のキーワードとして挙げた「生産性向上」にフルコミットすることが難しくなります。
もちろん、ただ言葉で提示するだけでは、「生きた指針」にはなりません。エンプロイヤーブランドが強い企業は、明確な「生きた指針」を提示し、長期的かつ徹底的な浸透施策に注力しています。企業としての価値観/スピリットの提示は、組織の方向性を示し、事業を強化するために重要なことなのです。
繰り返しになりますが、「働きがいがあり、自分らしく仕事ができる」とは、単に労働時間が短い会社や、何でも自由に働き方が選べる会社ではないはずです。労働時間よりも生産性が重要視され、失敗を恐れずチャレンジができて成長につながり、目指すべき方向性が明確に提示されている会社。多くの人はそうした、働く上での“快適さ”を強く求めているのではないでしょうか。
3つのキーワードについて実践していくには長期的な戦略が必要であり、誰でもすぐできる簡単なことではないかもしれません。しかしその課題に本気で取り組む姿勢が人の心を動かし、企業イメージを向上させ、エンプロイヤーブランドの向上に繋がっていくのです。