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採用リスクを劇的に下げる?「SNSスクリーニング」のメリットと知っておくべき法的論点

作成者: randstad|Dec 1, 2025 11:00:01 PM

SNSスクリーニングはプライバシー侵害の論争を招く可能性があり、企業は関連する法的規制に細心の注意を払う必要があります。

本記事では、SNSスクリーニングの基本、企業が候補者のSNSアカウントをチェックする理由、そして採用前スクリーニングにおいて企業が順守すべき規制について解説します。

 

 

 

SNSスクリーニングの基本

SNSスクリーニングとは?

SNSスクリーニング(またはSNSバックグラウンドチェック)とは、企業が内定を出す前に、候補者のオンライン上、特にSNSプラットフォームにおける存在や活動を調査することです。

具体的には、LinkedIn、Facebook、X(旧Twitter)、YouTube、Instagramなど、候補者が公開しているプロフィールや投稿内容、いいね、コメントなどを調査の対象とします。

実施のタイミングはいつが良いか?

企業がスクリーニングを実施するタイミングは様々です。

面接を行う前に開始し、候補者が職務に不適格となる「問題点」[1]を早期に発見しようとする企業もあれば、リファレンスチェックやバックグラウンドチェックと同時期に、選考の後期段階で実施する企業もあります。

導入企業はどの程度いるのか?

SNSスクリーニングを実施している企業の割合は、国や業界によって大きく異なります。

ハーバード・ビジネス・レビューのデータによると、アメリカの企業の70%[2]が、採用プロセスのある時点で候補者のSNSプロフィールをチェックしており、そのうち54%が、そこで発見された情報に基づいて候補者を不採用にした経験[3]があるとしています。

一方、EU圏内では、GDPRなどのプライバシー規制の影響もあり、比較的導入が少ない傾向にあります。また、金融サービスや機密情報を扱う職務など、個人の誠実性が特に重要とされる業界では、スクリーニングがより一般的に行われています。

 

SNSスクリーニングが企業にもたらすメリット

1. 潜在的な採用リスク[4]を発見し、「炎上」を未然に防ぐ

従業員は仕事外の私生活を持つ権利があり、多くの企業はプライベートと仕事の境界線[5]を尊重しています。

しかし、企業は従業員に対し、職場外であっても一定の行動規範を満たすことを期待します。これは、顧客や同僚との間に高い信頼性が求められる職務や、機密情報にアクセスする職務において特に重要です。

SNSスクリーニングを行う企業は、これが候補者が期待される「倫理的、合法的、かつ尊重に値する行動」の基本的なレベルを満たしているかを検証するのに役立つと主張します。特に日本では、SNSでの不適切な発言が炎上し、企業ブランドを毀損するリスクがあるため、その予防策として有効です。

2. 応募書類の自己申告を裏付ける

一部の候補者が応募書類に虚偽の情報[6]を記載しているのは事実です。SNSスクリーニングは全てを明らかにはできませんが、基本的な事実の裏付けに役立つ場合があります。

例えば、候補者が履歴書で「海外勤務経験がある」と主張しているにもかかわらず、その期間にわたる旅行や現地での生活を示すSNS投稿が全く見つからない場合、申告の信憑性を疑うきっかけになるかもしれません。

3. カルチャーフィットやバリューフィットの可能性を評価する
資格や経験は重要ですが、長期的な活躍と定着率の維持[7]のためには、候補者が会社の企業文化に適合し、基本的な価値観[8]を共有している必要があります。

スクリーニングを活用する組織は、候補者のSNSの活動が、彼らが個人的なレベルで組織と良いマッチングであるかを示す手がかりになると考えます。例えば、会社の文化が外向性や社交性を重視しているにもかかわらず、SNSの投稿から非常に内向的で消極的な人柄がうかがえる場合、不採用の直接的な理由にはなりませんが、面接でさらに深掘りすべきテーマとなるでしょう。

 

SNSスクリーニングの実施方法と限界

最も基本的なスクリーニングは、企業が候補者のプロフィールをプラットフォーム上で見つけ出し、彼らが公開しているコンテンツをチェックすることです。

しかし、一部の企業は、AIを活用したスクリーニング技術を提供する専門の調査会社に依頼しています。これらの専門業者は、オンライン全体やSNSを深く掘り下げ、コンプライアンス順守のための高度な対策を提供したり、入社後も継続的に監視するサービス[9]を提供したりすることもあります。

ただし、SNSスクリーニングは、候補者がオンラインで公開している情報によって限定されます。非倫理的または違法な行動をしていたとしても、それをSNSに投稿していなければ、いかなるスクリーニングでも検出することはできません。このため、SNSスクリーニングは「誤った安心感」を生み出す可能性があることに注意が必要です。

SNSスクリーニングは、広範な採用前チェックプロセスの一部として位置づけるべきであり、決して唯一の判断材料にしてはいけません。

 

SNSスクリーニングの法的論点とコンプライアンス

SNSスクリーニングの普及に伴い、世界的にプライバシー規制が進化し、企業が許容される活動範囲を制限しています。

特に、日本の企業が考慮すべきは、日本の個人情報保護法と、採用における差別の禁止に関する法令です。

 

GDPRがSNSスクリーニングについて言及していること

例えば、EUの規制であるGDPRは、企業や公的機関、その他の組織による個人データの利用と保管を管理しています。GDPRはSNSスクリーニングを明確に禁止しているわけではありませんが、GDPR関連の公式EUグループ[11]は、企業がこのプロセスで遵守すべきいくつかの具体的な規則を定めています。

  • 候補者のSNSプロフィールが公開されているという理由だけで、企業がその情報を処理できると仮定してはなりません。
  • 企業は、SNS情報を収集・処理するための法的根拠を持つ必要があります。たとえば、「正当な利益」[12]など、企業が明確な定義を理解しておくべき用語があります。
  • 企業は、候補者のプロフィールが「ビジネス目的か私的目的なのか」を考慮する必要があります。この区別が、その情報を処理できるかどうかに影響します。
  • 企業は、候補者が応募している職務に関連する情報のみを収集できます。
  • スクリーニングで収集された情報は、候補者が内定を辞退するか、不採用になった時点で直ちに削除されるべきです。
  • 企業は、採用プロセスを開始する前に、SNSプロフィールがスクリーニングされる可能性があることを候補者に通知しなければなりません。
  • 企業は、候補者に非公開のプロフィールにアクセスするために、SNS上で企業を「友だちに追加」するよう強制する法的根拠はありません。

これらのガイドラインを念頭に置き、企業はSNSスクリーニングを開始する前に、なぜ、いつ、どのように実施するのかを非常に明確にしておく必要があります。

 

SNSスクリーニングに影響を与えるその他の規制

これらの具体的な規則に加えて、企業はほとんどの国に存在する機密情報と差別に関する厳格な法律[13]についても認識しておく必要があります。

SNSスクリーニングは、その性質上、候補者の私生活に関する情報を収集することになります。これには、人種や民族的出自、政治的または宗教的見解、労働組合への加盟、健康状態、性的嗜好や性的指向、障がい、婚姻状況、性自認など、多くの情報が含まれる可能性があります。

EU諸国では、これらの情報の一部は「機微な個人データ」[14]に分類され、特定のケースでのみ収集が許可されています。米国のような他の管轄区域では、このような情報は候補者の「保護対象」[15]ステータスを明らかにする可能性があり、雇用主は採用決定にそれらを用いることはできません。

SNSスクリーニングを実施する企業は、意図せずこのような情報を収集・保管したり、無意識のうちにそれが採用決定に影響を与えたりする深刻なリスクを負うことになり、重大な法的トラブルにつながる可能性があります。

このため、SNS経由で収集した情報を採用チェックプロセスで使用することを検討する前に、法律専門家から詳細な助言を受け、透明性があり、コンプライアンスに準拠したスクリーニングプロセスを構築することが賢明です。

 

まとめ:採用前チェックの全体像を把握する

リファレンスチェック、エンプロイメント・バックグラウンドチェック、そしてSNSスクリーニングなど、採用前チェックの種類と活用シーンの違いを理解しておくことが重要です。

当社のリファレンスチェックのインフォグラフィックは、採用前調査の全体像の整理にお役立ていただけます。オフィスへの掲示や、プレゼンテーション資料としてぜひご活用ください。


[出典・参考資料]
本記事は以下の情報を参考に作成しました。

[1] 採用プロセス より
[2] 求職者のソーシャルメディア審査をやめる より
[3] ソーシャル メディアのせいで就職できなくなる可能性はありますか? より
[4] 採用プロセスを変革することで、不適切な人材を採用するリスクを軽減します より
[5] 従業員のエンゲージメント より
[6] 労働者の70%が履歴書に嘘をついている、新たな調査で判明 より
[7]従業員の定着 より
[8] 完璧なマッチを見つける:文化的適合性が重要な理由 より
[9] ソーシャルメディアスクリーニングプラットフォーム トップ8 [2024]より
[10] 職場におけるデータ処理に関する意見2 より
[11] 「正当な利益の根拠」とはどういう意味ですか? より
[12] LGBTQI+ 労働者の 41% が差別に直面しています。どうすればこの流れを変えることができるでしょうか? より
[13] 機密データ より
[14] 保護されたクラスの定義 より